秋田県立大学に「炭をつくるサークル」があるらしい…調べたら奥が深かった!炭やきで夕日の松原まもり隊

じゃんご
本日は秋田県立大学 秋田キャンパスに来ました!

秋田キャンパス?

じゃんご
…と言っても、ここは秋田キャンパス周辺の林道なのですが、ここでとあるサークル活動が行われているみたいなんです!このまま進んでみましょう。

どんどん進むと…

じゃんご
お!!見えてきました!

秋田の松を守るため

生物環境科学科 森林科学研究室 星崎 和彦 (ほしざき かずひこ)教授

生物環境科学科4年 小田垣 剛(おだがき つよし)さん

大学院:生物資源科学専攻 1年 小山 献冬(こやま けんと)さん

じゃんご
このサークルはどんな活動をしているんですか?

小田垣さん
地域住民と本学教員や学生が一体となって「松くい虫被害木(まつくいむしひがいぼく)」を特定し、伐採して炭づくりを行っています。今日は被害木を焼いて、炭をつくる作業をしています。

じゃんご
松くい虫?松を食べる虫ですか?

星崎先生
実はちょっと違うんです!そもそも松くい虫って、「マツノザイセンチュウ」と「マツノマダラカミキリ」が引き起こす松の伝染病のことを言うんです。昔そういう虫がいるだろうということで、実態が明らかにされる以前に新聞記者が「松くい虫」と名付けたのがきっかけです。

マツノサイゼンチュウ(体長約1mm)

マツノマダラカミキリ(成虫)

星崎先生
「マツノザイセンチュウ」という小さな線虫を「マツノマダラカミキリ」という昆虫が健全なマツに運んで、松を枯らします。感染した松は水が吸い上げられなくなり、数か月で枯れてしまうんです。

じゃんご
そうなんですね~。秋田でも被害はあるんですか?

星崎先生
はい。松くい虫の影響で松林が壊滅した場所もありますよ。

じゃんご
えっ!?松くい虫、めっちゃ被害あるんですね…。

窯で炭を焼く様子

窯から炭を取り出す様子。火をかけてから数日間薪をくべ、2~3週間で炭が完成する

小山さん
ここ最近は被害が拡大して、伐採する松の量も多くなってきています。なので雨や雪が降っても、病気が伝染する7月頃まですべて炭にしなければいけないんです。

星崎先生
ここにある被害木は30トンくらいあります。今年は私たちの処理能力を超えそうなくらい被害があって、炭焼きが追いつくか心配です。

30トンもある被害木

小山さん
3月から12月にかけてサークルで秋田キャンパス周辺の「被害木調査」を行った後、業者などから被害木を「伐採」してもらいます。伐採された木はこの場所に運ばれ、こうして炭焼きが行われます。

環境にやさしい炭づくり

じゃんご
ここでつくった炭はどうしているんですか?

小田垣さん
学園祭や天王グリーンランド(潟上市の道の駅)で販売しています。サークルの参加者は、無料で持ち帰ることができます!僕は消臭剤として使用したり、バーベキューをする際の炭として活用しています。

小山さん
僕も消臭剤として冷蔵庫に入れているのですが、「自分でつくった炭」ということもあり愛着がわきますよね。バーベキューの炭として使う時も、火が付きやすい感じがします。

星崎先生
松脂(まつやに)がついているので、火がつきやすいんです。だからキャンプ初心者向けにとっておすすめですよ。松の炭でサンマを焼いたら、もう離れられなくなりますよ!みなさんにはぜひ魚を焼いて食べてほしいです!

窯から取り出した炭は手作業で細かく砕いて袋に詰める

僕も挑戦してみました!

ドスッ!ドスッ!(案外ストレス解消になるかも)

砕いた炭たち、ちゃんと活用されますように!

星崎先生
実は松くい虫の防除には「農薬を使う方法」もあるのですが、それだと生態系を破壊してしまう可能性があるんです。なので私たちは環境にやさしい方法で、松くい虫の被害を減らそうとしています。

小田垣さん
被害木を切っだけでは防除にならなくて、そのまま放置してしまうと枯れが伝染します。また、いずれ微生物に分解されて、二酸化炭素が増える原因にもなるんです。炭にしたら分解されないし、活用もできるので環境にやさしいですよね。

小山さん
畑に炭をまくことで微生物が増加して土の質が改善されるなど、炭の活用方法っていろいろあるんですよ。

じゃんご
学生のお二人が「炭やきで夕日の松原まもり隊」に参加したきっかけは?

小田垣さん
星崎先生の授業で紹介や、新入生歓迎会の時に先輩から勧められて参加しました。参加してみるとこの活動は学生だけじゃなく、地域の方との連携もあって成立しているんだなと感じました。

小山さん
僕は「おもしろそう!」と思って参加しました。だって、「炭をつくるサークル」って珍しくないですか?1度見学したらハマってしまい、1年生の頃からずっと続けています。大学の授業では地域の方と関わる機会が少ないので、貴重な経験ができるサークルだと思います。

じゃんご
今後このサークルはどうなってほしい?

小田垣さん
炭やきは20年も続いているので、ずっと続いてほしいです!

小山さん
今は秋田県立大学の学生だけが参加していますが、他大学とも連携していけたらなと思っています。みんなで環境保全の意識を高め、知識を学べる活動だと思うので続いてほしいです。

「炭やきで夕日の松原まもり隊」主な活動内容
  • 被害木調査
  • 炭焼き作業
  • 炭の販売 など

環境保全活動を維持する意義

佐々木 隆(ささき たかし)会長

続いては「炭やきで夕日の松原まもり隊」の会長、佐々木さんにお話を伺いました。

じゃんご
佐々木さんがこの活動に参加したのはいつ頃からですか?

佐々木会長
20年ほど前から参加しています。今は定年退職をして参加していますが、当時はまだ会社員でした。私は社員教育をする立場だったので、故・小林一三名誉教授(※)に環境をテーマとした講演をお願いしたんです。その講演で「被害木を炭にする活動をしています」という話を聞いて、参加したのがきっかけです。

故・小林一三 名誉教授
この活動を立ち上げた森林科学研究室の初代教授。

当日参加した地域の方々

じゃんご
学生と一緒に作業をして感じたことはありますか?

佐々木会長
学生の力は大きいです。力のいる作業が多いので、こうして学生が参加してくれるのはうれしいですね。炭焼きの作業を覚えるとともに、環境保全に対する意識が高まるのは良いことだと思います。

じゃんご
今年の被害木は多いと伺いました。

佐々木会長
今年は特に多いので、7月までにすべて炭にできるか心配です。20年この活動に参加していますが、それでも被害木はなくなっていません。私たちが活動しなければ被害はどんどん広がるだけなので、継続して続けるべきだと思っています。

じゃんご
今後の課題はありますか?

佐々木会長
地域住民の参加者が少なくなっています。核となる地域の方々は80歳を超えている方がほとんどで、後は引退していくばかり。どのように新規の参加者を増やすかが課題かなと思っています。

炭づくりと人間力

じゃんご
星崎先生がこのサークルに参加したきっかけを教えてください。

星崎先生
最初は研究室の初代教授、故・小林一三名誉教授をサポートしていたのですが、「これは良い活動だな」と思ってハマっていきました。屋外で作業するので気晴らしやリフレッシュになりますし、なにより人間力が鍛えられるんですよ!

じゃんご
人間力?

星崎先生
このサークルで使っている窯や屋根などは、すべて手作りです。窯のつくり方、屋根のつくり方、炭のつくり方…。作業を通して、昔の人たちがやっていた基礎的な業(わざ)を学べる活動でもあるんです。私はこの活動がきっかけで、日曜大工が趣味になりました。

作業場の外観

窯の内部

窯にできた隙間を埋める「粘土」も手作業でつくる

じゃんご
ただ「炭をつくる」だけのサークルではないんですね。

星崎先生
「仕事は誰からも指示されません。自分で見つけてつくりましょう!」というのが、昔からここに伝わるルールです。なので学生たちも、手が空いたら気になったところを掃除する、人が余っていたら手伝ってもらうとか、自発的に行動しています。

じゃんご
そのルールも、人間力につながっていますね。(確かにポツンとしている学生がいなかった!)

活動開始は2002年。2021年5月で活動200回目を迎えた

じゃんご
20年以上活動を続けていますが、被害は無くなりませんか?

星崎先生
そうですね〜。被害がゼロになって、このサークルが解散するのが理想ですけど、なかなか難しいです。ですが何もしないで放置したら、ほとんどの木が枯れて林が無くなってしまいます。松くい虫の被害を現状維持、レベルを下げることができれば上出来と受け止めていただけると励みになります。

じゃんご
会長は、「この活動をどう続けていくかが課題」と言っていました。

星崎先生
4年間ずっと活動してくれる学生はいるのですが、卒業生の参加者がいないことに危機感を覚えています。ご年配の方も引退されていきますし、地域住民の新規参加者は定年退職をされたシニア層です。会長は40代から参加されていましたが、今後はそういったサークルの意義を理解してメンバーを引っ張る存在がいなければ、持続していくのが難しいと考えています。

じゃんご
炭やきで夕日の松原まもり隊は、今後どのように活動していきますか?

星崎先生
活動規模を維持していきながら、このサークルを広めていきたいです。例えば一般の方にこの活動に参加してもらい、環境保全について学んでもらったり。真っ黒になりますが、自分でつくった炭を持ち帰って活用できたり、休日の楽しみになったりと案外楽しいと思うんですよね。

星崎先生
消臭剤やバーベキュー、畑の土壌改良など、「炭の活用方法」をみなさんに知ってもらうことも重要ですね。この活動に参加すると自分でつくった炭を持ち帰ることができるので、「炭をホームセンターで買う」という選択肢はもう私たちの中にはありません!

じゃんご
松くい虫の被害を防ぐだけじゃなく、人間力が養えたり、自分でつくった炭を後から活用する楽しみがあるサークルなんですね。ありがとうございました!

取材データ

秋田県立大学 秋田キャンパス:炭やきで夕日の松原まもり隊
大学HP:https://www.akita-pu.ac.jp/
森林科学研究室ページ:http://www.akita-pu.ac.jp/bioresource/dbe/forest/sumiyaki.html

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