アイドルを知ったのは小学生の頃。
姉の部屋に貼ってあった「安倍なつみのポスター(モーニング娘。)」を見たのがきっかけだ。父がそのポスターを見て、「なんて読むの?あんばいなつみ?」と”おとぼけ”したのを今でも覚えている。
中学生になるまで、アイドルなんて安倍なつみくらいしか知らなかったし、モーニング娘。の曲さえ知っていたものの、まったく興味を抱くことはなかった。むしろ部活に打ち込んだり、友達とPSPでモンハンしてたほうが夢中になれる人だった。
高校生になると、AKB48がアイドル業界で爆売れ。この頃に『ポニーテールとシュシュ』『ヘビーローテーション』『フライングゲット』など、今では”知らない人がいない”ほどのレジェンド楽曲が次々とリリースされた。
「Mステ」「FNS歌謡祭」「紅白歌合戦」をはじめとしたテレビ番組で、AKB48がヒットソングを披露していた頃には、僕の頭の中から安倍なつみの存在は薄れ、気がつけば「AKBINGO!」「マジすか学園」「AKB48のオールナイトニッポン」などにドハマり。
部活の合宿中にテレビが見れなかったから、「BSの『桜からの手紙』、録画しといて!」と顔を赤くして、親に頼み込むほどの没頭ぶりだった。当時コラボしていた”ぷっちょのミニチュア”は、たしか全種類集めた。
時が経ち、”にわかAKBファン”は、山形市に住む大学生になった。この頃から、「アイドル戦国時代」という言葉が世に知れ渡り、ももいろクローバーZ、SUPER☆GiRLS、でんぱ組.incといった、AKB48以外のアイドルも目立ち始めた(自分の中で)。
時を駆ける乃木坂46が”AKB48の公式ライバル”として銘打たれ、賛否両論あった『会いたかったかもしれない』がリリースされたのも、ちょうどこの頃。
前田敦子が卒業し、他のアイドルグループに目移りしやすい時期だったと思う。
その頃僕は、「企画構想学科」という、イベント企画や商品企画を立案・実施する学部にいた。…名前はクリエイティブ性に溢れていそうだが(実際に溢れている学科でした!)、なんら変哲もない、将来のことも考える頭もない、”ごく普通の大学生”だった。
ある時、同じゼミの友人から「アイドル興味あるんだったら、これ見て!!」と1枚のアルバムを渡された。友人からはとにかく猛烈なヲタ感が出ていたし、なんだか断ると雰囲気が悪くなりそうだから、「わかった」とバレないように空返事。適当に曲を聴いて「よかったね」って言えばOKだろう、くらいに思っていた。
家に帰り、お気に入りのSONYのVAIOで課題を済ませ、プロスピや龍が如くをプレイするのがいつもの日課。しかし今日はバッグの中に、『℃-ute 神聖なるベストアルバム』が入っていた。それがなんだか気持ち悪いから、とりあえず、とりあえず、文字通りの”視聴”をさせていただいた。ちなみに「℃-ute」の読みは「キュート」で、「給湯器」と同じイントネーションで発音する。
アルバムを開くと、CDと一緒に、ミュージックビデオ(ダンスショットバージョン)が収録されたDVDを見つけた。とにかく早いところアルバムを返したかったから、アイドルの顔も見れて歌も聴ける、DVDを再生した。
僕の知っているアイドルとは違った。
ダンスがひときわ目立っていた。
特に、収録されていた『まっさらブルージーンズ』は、AKB48の『Beginner』とはまた違う”カッコよさ”が滲み出ていて、「こんなカッコいいアイドル、いるんか~!?」と衝撃が走った。
翌日、推し曲と推しメンを友人に話す僕がいた。
この日を境に、帰宅するやいなやSONYのVAIOで、℃-uteのミュージックビデオや過去動画をあさるのが日課となり、鍵アカのSNSには「℃-ute」や「矢島舞美」というワードが次々と投下されていった。
“ごく普通の大学生”の体裁を保ちたかった僕は、すごく不安を抱えていた。「『アイドルヲタク』って気持ち悪いイメージあるよなぁ~」…℃-uteにハマってしまった手前、この先からはヲタクの世界だ。そっちに行けば、周りから気持ち悪いドルヲタ扱いされてしまうのではないか。
今考えたらたいした悩みじゃないし、アイドル好きな大学生だってたくさんいるのだから、ぜんぜん気持ち悪いことではない、むしろ誇るべき称号だ!…と、あの頃の僕に言ってやりたい。しかし当時は、ドルヲタになることを渋っていた自分がいた。
けれども℃-uteは、そんな悩みをも打ち砕く。
「気づいたら病室のベットの上にいた」…という映画のワンシーンではないが、僕は「気づいたら℃-uteの現場(ライブ会場)にいた」のである。それも1人で…だ。
「生の℃-uteの歌を聞きたかった」、「あのカッコいいダンスを見たかった」…だから、1人で行ってしまおうと思った、とまあ、そんなところだろう。
夜行バスに乗る、都会を1人で歩く、山手線だかなんだかわからない路線を使う…アイドルを直接、この目で見るのも初めてだ。「画面越しに見ていた℃-uteを生で見れるなんて!!」と、新参ヲタらしく、胸を躍らせていた。
初のハロプロ現場は、少し怖かった。ライブ会場の入り口付近では、日替わりの写真グッズを交換している人、余らせていたCDを無料配布する人、オリジナルグッズを身に纏いすごいオーラを出してる人、「チケット求む!」や「チケット売ります!」というボードを両手で掲げている人もいた。この歳になって、”知らない世界を知る”ということは、楽しくもあり、ちょっぴり怖いもの、ということを学んだ。
不安もあった。コール(曲中の掛け声)がうまくできるか、グッズをちゃんと購入できるか、とにかく不安がたくさん。さらにはヲタクの戦闘服(グッズTシャツ)やキンブレ(サイリウム)も所持していないときた。
「え、楽しめるかな?」…徐々に募る不安に、いっそ山形に帰ってしまおうかと思った。が、イヤホンから聴こえてくる『いざ、進め!Steady go!』が、その衝動を抑えてくれた。
自分の席を探し、所定の位置につく…まだ不安が残る。そもそもアイドルライブって、立ちっぱなしなのか、着席するタイミングはあるのか、など、わからないことだらけだ。だめだ、やっぱり帰りたい…。
ライブ開始時刻が近づくにつれ、どんどん席が埋まっていく。最初は空いていた、僕の両隣りの席も固められ、移動が難しくなる。もう逃げられない。
隣の席には、背丈が大きく、スラッとした、やさしい顔をしたお兄さんが座った。とても優しそうなオーラが出ていたので、僕はあたかも童貞をカミングアウトする勢いで、赤面しながら募る不安をぶちまけた。
「すみません!僕、初めてなんですけど…サイリウムとかも無くて、楽しめますか…?」
「あと、曲も少ししか覚えて無くて、大丈夫かなって…」
お兄さんはニンマリ顔で、赤面新参ヲタに対してこう答えた。
「全部曲を知らなくても楽しめるよ!あ、僕キンブレ余ってるから、使う?」
…この後、抱かれてもいい。そう思ってしまえるほど、愛と優しさのある対応だった。今思い返せば、「人ってこんなに優しいの!?」とハロプロの歌詞のフレーズになりそうな体験である。
聞くところ、お兄さんは関東在住で、ハロプロの現場に何度も足を運んでいる、いわば”古参ヲタ”だとわかった。
ライブが始まるまで、山形から来たこと、最近好きになった曲、推しメンの話など、存分に(一方的に)話したのだが、全部受け止め、同調してくれた。まるで師匠と弟子のようなやりとりを、何度もした。
ライブ終了後には、「また会ったときにでも!」と、持参していた『℃-ute DVD MAGAZINE(初期のやつ)』を何本も貸してくれた。いよいよ、本当に抱かれてもいい、とマジで考えてしまった。
帰り際、お兄さんとは”僕の最初のヲタ友”としてLINEを交換してもらい、今後の現場では、何度も顔をあわせる仲となった。
会うたび、DVD MAGAZINEを貸してくれた。山形では入手できないからと、東京で入手できる矢島舞美のサイン入りポスターをタダでプレゼントしてくれた。最近はハロプロの現場に行ってないので、お兄さんとはなかなか会えていないが、本当に出会えてよかったなと思っている。
照明が暗くなり、幕が上がる。
ライトに照らされた5人のシルエットは、嘘みたいなスタイル(細さ)でかなりビビった。当時の新曲、『Love take it all』のイントロが鳴り響くと、ハロヲタたちのコールと共に、彼女たちは蝶のように舞った。
野球応援でも聞いたことのないデカい声、スピーカーから鳴り響く重低音は花火のように胸に来る。色とりどりのサイリウムの先に見えるのは、これまで画面越しにしか見てこなかった℃-ute。
この現場はもう、カオスだ。
目が合っていないんだろうけど、”合った気がした”だけで溢れだす多幸感。地方からやってきた新参ヲタのスペックには収まりきらない莫大なデータが、終始、黒目を大きくした。
こんなに高揚する瞬間は、後にも先にも訪れないと思った。このライブ以降、僕はすっかり”℃-uteのヲタク”として、後に、”ハロヲタ”として、数えきれないほどのライブ会場に足を運ぶことになる ―
6月11日。
この記事を公開した日は、
℃-uteの結成日です。
だから何だよ!という気もしますが、これまで僕が歩んできたハロヲタ道を、節目に残しておきたい…!と思い、こんな長文を(笑)
既に℃-uteは解散し、メンバーそれぞれ新たな道を歩んでいますが、あの頃の℃-uteは、僕の青春でした。いろんな経験ができました。それが血となり肉となり、今の僕を形成していると思います。℃-uteを紹介してくれた大学の友人、いろいろ優しくしてくれたヲタ仲間、とても感謝しています。
解散してから結構経ちますが、この調子なので、今日も明日も、たぶんジジイになっても、僕は℃-uteのことを懐かしむハロヲタなんだと思います。最近はハロプロ周りを追えていないことが多く、「え、新メンバー加入するの!?」なんてことが多々ありますが、ハロステを見て、勉強しなおしたいと思います!
最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。ほかにもハロプロの記事、書いています。